指差呼称という言葉をご存じでしょうか?
建設業、製造業等の現場作業に従事している方は必ずと言って良いほど知っている重要なキーワードです。
管理系の仕事に従事している方にはなじみがあまりない言葉とも言われていますが、管理系の仕事に従事している方にも指差呼称はとても大切な安全衛生活動になります。
今回は、指差呼称について詳しくみていきましょう。
指差呼称とは
指差呼称(しさこしょう・ゆびさしこしょう)とは、危険予知訓練(危険予知活動)の一環として信号・標識・計器など対象物に指差し、その名称と状態を声に出して確認することです。
「指差喚呼(しさかんこ)」とも呼ばれたりします。英語では、「POINTING and Calling」と言われています。
①目で見て、②腕を伸ばし指で指して、③口を開き声に出して「○○○、ヨシ!」、④耳で自分の声を聞く、これが指差呼称です。
指差呼称のルーツ
指差呼称の由来は、旧国鉄(日本国有鉄道)の蒸気機関車の運転士が、信号確認のためにおこなっていた安全動作が始まりで、事故・災害予防対策の一つです。
明治末年、目が悪くなった機関手の堀八十吉氏が、機関助手に何度も信号確認をしていた行為を同乗していた機関車課の幹部が堀機関手が目が悪いことに気がつかずに素晴らしいことであると感銘を受けルール化されたものです。
「機関車乗務員教範(大正2年7月発行)」にも指差呼称が掲載されています。
現在では鉄道業にとどまることなく、航空業、運輸業、建設業、製造業等、様々な業界でおこなわれています。
海外では、韓国、台湾、中国、香港などの鉄道会社やバス会社、ニューヨーク地下鉄で指差呼称が積極的に採用されています。
なぜ指差呼称が必要なのか
「人間はもともと欠陥だらけでエラーをする生き物である。そのためなんとかエラーをしないようにまたエラーをしても事故災害につながらないようにする必要がある。」ということから指差呼称の必要性を「不注意」、「錯覚」、「省略行動・近道反応」の3つの側面から説明します。
不注意
安全な作業をおこなうには、危険と不注意を結合させないことです。
そのために作業の要所要所で、指差呼称によって意識レベルをギアチェンジしてクリアにいきます。
「ウッカリ」、「ボンヤリ」「不注意」を防ぐことが不可欠です。
錯誤
人間は全てのことを正確に知覚し、正確に判断して行動することは不可能です。
正確に知覚しうる範囲には限界があり、しばしば感覚にひずみを起こして錯覚(錯誤)することが研究から明らかにされています。
指差呼称をすることによって、意識レベルをギアチェンジしていきます。
正常でクリアな状態にしはっきりと対象物を確認することが不可欠です。
省略行為・近道行動
人間は、しばしばやらなければならない手順を省略したり、禁止されている近道を選んだりしがちです。
保護具を着用しなかったり(省略行為)、材料の上を歩いたり(近道行動)、大丈夫だろうという憶測判断から不安全状態、不安全行動を引き起こします。
指差呼称は、これらの省略行為や近道行動を防止するために有効な手段です。
指差呼称をすることによって、意識レベルをギアチェンジしていきます。
正常でクリアな状態にし、指差呼称を習慣化させることが不可欠です。
指差呼称による検証実験
1994年、財団法人鉄道総合技術研究所(現:公益財団法人鉄道総合技術研究所)の「押し誤り率」の効果実験があります。
実験によると、「指差しと呼称を共に行わなかった」場合の操作ボタンの押し間違いの発生率が2.38%、「呼称のみ行った」場合の押し間違いの発生率は1.0%、「指差しだけ行った」場合の押し間違いの発生率は0.75%でした。
一方、指差しと呼称を「共に行った場合」の押し間違いの発生率は0.38%となり、 指差しと呼称を「共に行った」場合の押し間違いの発生率は、「共に行わなかっ た」場合の発生率に比べ、約6分の1という結果でした。
ヒューマンエラーの根絶を実現させることまではいきませんが、研究からも分かるように指差呼称をおこなうことは「意識レベルを上げ、確認の精度を向上させる有効な手段」であることがわかります。
フェーズ理論を用いた指差呼称の有効性
日本大学生産工学部橋本邦衛教授の研究であるフェーズ理論によると、「意識レベルには5段階あり、日常の定常作業はほとんどレベルⅡ(正常でくつろいだ状態)で処理される。レベルⅡの状態でもエラーしないような人間工学的な配慮をする必要がある。同時に非定常業務のときは、自分でレベルⅢ(正常で明快な状態)に切り替える必要があり、そ のためには指差し呼称が有効である。またフェーズⅣ(過緊張・パニック状態)をフェーズⅢに切り替えるためにも指差呼称が有効である。」と提唱されています。
フェーズ理論とはひとの意識の考え方で、5段階から分かれフェーズが大きくなるほど集中・緊張をしている状態を表しています。
対象を指で差し大声で確認する行動によって、意識レベルをフェーズⅢに切り替え、集中力を高める効果を狙った行為が大切であるということです。
対象物を指差し、声に出して確認することよって、意識レベルをに上げ、緊張感、集中力を高める効果があります。
指差呼称のやり方
指差呼称のやり方はシンプルかつ覚えやすいものです。
指差呼称のやり方は以下になります。
1.対象物をしっかり見る
確認すべき対象物をしっかりと見ます。
2.対象物を指で差す
「脚立のロックの確認」、「安全帯の点検」など呼称する項目を声に出しながら、右腕を真っ直ぐ伸ばし、対象から目を離さず、人差し指で対象を指差します。
指を差す際、右手の親指を中指にかけた「縦拳」の形から、人差し指を真っ直ぐに突き出すと、指差しが引き締まります。
3.差した指を耳元へ
差した右手を右の耳元まで戻しながら、「本当に良いか(正しいか、合っているか)」反芻(はんすう)し、確かめる。
4.右手を振り下ろす
確認できたら、「ヨシッ!」と発声しながら、対象物に向かって右手を振り下ろす。
《POINT》
1から4の一連動作は、左手を腰に当てて背筋をピンと伸ばし、キビキビとした動作でおこなうとかっこよく決まります。
中には恥ずかしいからと中途半端に指差呼称をしたり、声を出さない方もいらっしゃいます。
中途半端に指差呼称をしたり、声を出さないと逆にかっこ悪くなりますし、やり直しせざるも得なくなり余計に恥ずかしいですよ。
安全意識を高めるうえでも一発で決めましょう。
指差呼称は、意識レベルをギアチェンジして正常でクリアな状態にし、作業の正確性と安全性を高めるための安全衛生活動の手法です。
指差呼称は、トップから新入社員の全員が実施することが大切で、事業場全体に至るまで展開することによって定着します。
安全意識を高めゼロ災害を達成するためにも指差呼称を積極的に取り入れていきましょう。